建築構造
■地震規模
基準法では地震規模を明記してありませんので、基準法どおりに造った場合にどの程度の地震に堪えるのかは正確に特定はできませんが、表-1に示すように、中地震は気象庁の震度階X弱(80〜100ガル)大地震は震度階Y(300〜400ガル)程度の地震を想定しているといわれています。
表-1
  中地震時(一次設計) 大地震時(二次設計)
標準せんだん力係数 0.2以上 1.0以上
想定地震 建物の耐用年限中に2〜3回発生する地震 建物の耐用年限中に1回発生するかもしれない地震
想定地震の震度 気象庁の震度階X弱程度 気象庁の震度階Y程度
想定地震の加速度 80〜100ガル 300〜400ガル
構成部材の状況 部材は全て許容応力度内にあり大きなひび割れは起こらない。 塑性化する部材も出るが、粘りにより地震エネルギーを吸収し倒壊は起こらない
表-2
  最大加速度記録 マグニチュード
関東大震災(1923) 330ガル 7.9
十勝沖地震(1968)八戸 235ガル 7.9
宮城県沖地震(1978) 432ガル 7.4
兵庫県南部地震(1995) 818ガル 7.2
表-2に、代表的な地震の大きさを示します。 観測された最大の値であって、その地域全体がそのように揺られたわけではありませんが、 基準法で想定している大地震を超える記録もすでに出ています。 (阪神淡路大震災の兵庫県南部地震は、その中でも群を抜いて大きい加速度ですが、その被害状況調査から、 基準法がかなり有効であったと先の【地震−4】にありました。)
「基準法を守るとマグニチュードいくつぐらいの地震に耐えられるのか」という質問をよく受けます。
「マグニチュード」は地震そのものの大きさをあらわす単位ですが、基準法では建物の建っている場所での地震の大きさが問題となりますので、マグニチュードでは表現できません。震度いくつとか、何ガル(加速度の単位)とか何カイン(速度の単位)といった「その場所での地震の大きさ」で示します。


地震と基準法の歴史
基準法における地震の大きさについては、基準法の歴史を紐解かねばなりません。少し長くなりますが、順にお話してみましょう。

1914年、基準法ができるより大分前のことですが、東京大学・佐野利器先生が「家屋耐震構造論」の中で「震度」の概念を提案されました。この震度は、気象庁震度と違い、地震から受ける力を自分の支えている重さと比べてどのくらいの割合いと考えるかということで、重さ100tの建物に働く地震力を1/10の10tと考えようという提案でした。(建物の重さは地球の引力(=重力加速度)で表されますので、それ以降、地震は加速度単位(=ガル)で説明されることが続いてきたようです。)

1920年に建築基準法の前身である市街地建築物法(施工規則)ができ、人の密集する市街地に限ってですが、建築物を建てるに際し、構造計算をして安全を確かめなければならないことになりました。しかし、この段階では自分の重さに耐えられるようにだけはしておこうということで、台風や地震に対する計算方法は定められていませんでした。

1923年に関東大震災が起こり、地震で多くの建物が崩壊したため、翌1924年に、慌てて地震に対する計算もしなければならないことになりました。この時採用されたのが、前述の水平震度を0.1以上とするというものでした。

1950年になって、建築基準法が制定され、それまで市街地だけで考えていた建物の安全性が、全国どこで建てる建物についても安全を考えなければならないことになりました。 この時、建物自身の重さ(自重)や建物に載せる荷重(積載荷重)、雪国の雪荷重のように、長い時間かかり続ける荷重を長期荷重とし、地震や台風のように一過性の荷重を短期荷重と呼ぶことにし、安全率のとり方を長期と短期で変える事にしました。例えば300の力まで耐えられるコンクリートの場合、短期荷重に対しては2/3の200の範囲で、長期荷重については1/3の100までに納まるようにゆとりをもって柱や梁の断面を決めるという事です。(そこまでは許すという事から、このような設計法を許容応力度設計法と呼び、現在でも使われている方法です。) この長期と短期の許容力の違いをもうけたことから、それまで地震力を支えている荷重の0.1倍としていたものが、このときから短期荷重として0.2倍を考えることになり、(表現が変わっただけで、実質的には変わりません。)その後、この0.2倍の考え方がつづきます。

1964年には、それまでの振動についての研究成果を取り入れ、地震時の建物のゆれ具合を考慮した設計方法を取り入れましたが、最下部から建物に入ってくる地震力を自重の0.2倍とすることは、従来と変わりませんでした。

1968年には十勝沖地震、1978年には宮城沖地震があり、そのつど、被害を教訓に基準法を改定してきましたが、補強筋の巻き方やピッチなどについての見直しで、地震の力そのものの変更ではありませんでした。

1981年に、それまでの地震に対する研究の成果を集大成して、基準法の地震項が「新耐震設計法」と呼ばれる方法に大改定されました。この大改定では、建物を設計する際に、二つの地震について検討することが義務付けられました。一つは、その建物が存続する間に2〜3回遭遇する可能性がある中規模の地震に対する検討で、振動性状を考慮して各階に働く水平力を算出するのですが、最下部に生じる水平力を、自分が支える荷重の0.2倍を標準値としています。もう一つはその建物の存続中に遭遇するやも知れない大規模な地震に対する検討で、最下層での標準値として自分が支える荷重の1.0倍とすることになっています。そして、この法律の考え方が現在も使われているのです。

ここまでくどくどと述べてきましたが、基準法で定められている地震力は、はじめの佐野利器先生の「水平震度」の考えが脈々と流れ、どのような地震の何ガル・何カインに堪えるようにしなければならないといった記述は見当たりません。経験工学の域を出ていないように見えますが、地震被害を受けるたびに研究成果を取り入れて補強してきましたので、1995年の阪神大震災(兵庫県南部地震)の被害を分析した結果でもわかるように、地震被害を食い止める手法として一定の評価が得られています。
地震と積載荷重
建物にはどれくらいの荷重を載せられるのでしょうか。
使用状況によるのが原則ですが、「住宅」や「駐車場」など一般的な用途については建築基準法で最小値が決められています。
表-1 建築基準法に見る積載荷重
部屋の種類 床設計用の
積載荷重
架構設計用の
積載荷重
地震力算出用の
積載荷重
住宅の居室、住宅以外の
建築物の寝室または病室
1800N/m2 1300N/m2 600N/m2
事務室 2900N/m2 1800N/m2 800N/m2
教室 2300N/m2 2100N/m2 1100N/m2
百貨店または店舗の売場 2900N/m2 2400N/m2 1300N/m2
劇場、映画館などの
客席または集会室
固定席 2900N/m2 2600N/m2 1600N/m2
その他 3500N/m2 3200N/m2 2100N/m2
自動車車庫および自動車通路 5400N/m2 3900N/m2 2000N/m2

同じ住宅の居室についてみても、床用・架構用・地震用の3つの積載荷重が決められています。まず、床設計用積載荷重についてお話しましょう。

表-1によりますと、例えば「住宅の居室」の床は、人や家具などを1平方メートルあたり1800N(約180kg)以上載せることができるように設計するということになります。180kg/m2というと1平方メートルに大人約3人で、10畳のリビングなら大人約50人分の荷重があるとして、其れに耐える設計をすることになります。住宅にしては荷重を見過ぎなようにも思いますが、これは、たとえば本を入れたダンボールを積み上げる・ピアノを置く・など、荷重を集中的に配置した場合を考慮しているためです。

「事務室」は法令上2900N/m2以上と決められていますが、書類収納棚や金庫など重量物を載せても対応できるように4900N/m2とすることも多くなっています。

次に、梁・柱・基礎など架構設計用の積載荷重ですが、
人や家具が載る床はその周辺を梁で支えられ、梁は柱につながり、柱は基礎を介して地盤や杭で支持されています。つまり、床に載った荷重は、次に梁・柱・基礎などの架構で支えられることになります。

先に説明した「床設計用の積載荷重(住宅では1800N/m2)」では、荷重が集中した場合も考慮していますが、梁や柱および基礎を設計する場合には、それぞれが複数の床を支えているため、どこかに集中的に積載荷重が載ったとしても、他の床ではそれほど集中していない、たとえば、納戸は荷物でいっぱいでもそのとなりは廊下になっていて何も置いていない・本の山ができていてもその前は机だけ・といった具合で、積載荷重は平均化されますので、荷重としてはやや小さな値を考えておけばいいことになります。こうして決められた値が「架構設計用の積載荷重(住宅では1300N/m2)」です。


積載荷重には、さらにもうひとつ「地震力算出用の積載荷重(住宅では600N/m2)」があります。地震が起きた時、建物は地震により揺れますが、その揺らす力は建物の重さ(固定過重+積載荷重)に比例すると考えられています。この場合の積載荷重に集中や偏在を考慮する必要はなく、人や家具の重量の合計そのものが対象となります。その結果、「架構設計用の積載荷重」よりさらに小さな値となります。

以上のことから、基準法で決めた3種類の積載荷重は、
「床設計用の積載荷重」>「架構設計用の積載荷重」>「地震力算出用の積載荷重」の関係にあります。

このように、建物を設計する際の積載荷重は、設計する部位・目的に応じて変えて設計しています。建物は安全でなければいけませんが、安全だけでなく、経済的なことも考慮して、細かい配慮がされているのです。

新しい建物の場合には、建物の使い方を考慮して設計するので、どのような過酷な条件でも、例えばビルの屋上に土を盛って山を作り、大木を植えて、緑豊かな屋上公園を作り出すようなことも可能ですが、すでに建っている建物を利用して何かを計画する場合には、建物の設計段階で考慮した積載荷重が、思わぬ障害となることがあります。例えば、事務所専用のビルであったものを、1、2階だけ店舗としたいと思った場合に、表-1を見てください。積載荷重が、今までの事務所建築より店舗の方が大きい値となっています。この場合、はじめによほど安全に対してゆとりのある設計をしてある場合以外は、変更できないことになります。

一時期、ボーリングがはやり、多くのボーリング場が立てられましたが、競技人口が減ってきてボーリング場として経営が成り立たないので、この広い競技場をスーパーに変更しようとしましたが、積載荷重が足りないために建物を取り壊さなければならなかった例もあります。逆に、同じボーリング場の別の例では、はじめの設計段階で他の使い道も考えて大きめの積載荷重を採用しておいたために、建物を壊さずに転売することができたそうです。

屋上緑化は環境問題からは是非進めたいテーマですが、表-1の屋上の欄を見ていただくとわかるように、あまり大きな積載荷重ではありません。そのため、既存建物の屋上を緑で覆いたい場合には、積載荷重に見合った方法を採用する必要があります。(例えば、少数のプランターからつる性の葉を生い茂らす等。特に、屋上全面に土を盛るような場合には、床用も地震用も同じ積載荷重を考えなければなりません。)

このように、建物に何かを載せようとする場合には、まず、設計段階でどの程度の積載荷重を考慮しているかを確かめてから計画を推し進めるようにしてください。

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